2014年7月1日火曜日

多事叢論(特別編): 安倍首相の集団的自衛権行使容認でどうなるか。 イラク戦争に見る自衛隊の姿。

いい記事である。
権力の番人としての本領が発揮された、その見本のような記事だ。


1) 毎日新聞の記事から、考えてみる。

イラク特措法自体が、憲法に反するの喪でもあったが、実際に行われていたことも、それを裏付けるけるものであった。

「ある書類」をご覧いただきたい。1枚は墨塗り、1枚は墨塗りが取り払われている。そこで明らかになっているのは「自衛隊が憲法違反をしていた事実」である。


最初から説明しよう。2003年3月、大量破壊兵器の査察受け入れを拒否していたイラクに対し、米国は英国などと開戦に踏み切った。ロシアや中国の反対を押し切る形だったが、小泉純一郎政権(当時)は米国を支持し、同年7月にイラク復興特別措置法(イラク特措法)を成立させた。

「非戦闘地域」で「人道支援」を行うため、5年間で陸海空の隊員延べ1万人がイラクに派遣された。』(毎日新聞 6/28)


 2) イラクの戦争に派遣されていた自衛隊は、「後方支援」をしていた
 
まず、「5年間で陸海空の隊員延べ1万人」もの自衛隊員が、送られていたこと自体が驚きだ。この事を見ただけでも、これは、もう単なる人道支援措置を超えている。

イラクの国民の目には、日本の自衛隊は、はっきりと、米国の同盟軍に映ったことであろう。  


「ある書類」の記載されていたのは、「週間空輸実績」。
イラクの戦争に派遣された、自衛隊が、米軍などの、後方支援をしていたことを示すもの。

記事には、こうある。

『<10・23(月) 米陸軍51 米海軍4 米空軍1 米軍属5 人数61>。書類に書かれた数字は、06年10月23〜29日に、クウェートのアリアルサレム空軍基地からイラクの首都バグダッドに航空自衛隊が空輸した米兵の数を示す「週間空輸実績」だ』(同上)

これは、民主党政権に変わった後の、2009年の9月に全面開示されたことにより判明した事実である。(この事だけを見ても、政権が交代する事が重要であることが解る)

何と、自衛隊が空輸した2万6384人の人員の内、米軍は、1万7650人に上る事が分った、のだという。

3) 名古屋高裁の判断は、正しい

公開に先立つ2008年の4月に、名古屋高裁が、「他国による武力行使と一体化した行動であって、自らも武力の行使を行ったとの評価を受けざるを得ない」という判断を下していた。

高裁の、憲法とイラク特措法に違反する、という判断は当然である。

その名古屋高裁を戦った弁護士は、人道支援物資をイラクに運んだのは最初の1回だけでした。激しい戦闘が行われていたバグダッドの最前線に武装した米兵を多数送り込む輸送であることは一目瞭然だった」と述べている。

何たる欺瞞、何たる不法行為。
言葉もない。
こんな現実があった、とは。

4) シビリアンコントロールも、働かないと、どうなるか

さらに驚くべきことに、この判決の後も、首相も自衛隊の航空幕僚長も、自衛隊をイラクから、撤収させる事はなかった。

幕僚長の言葉が印象に残る。こういった。
「そんなの関係ねえー」と。

シビリアンコントロールも、働かず、自衛隊の自制もなかった。これが、阪神淡路大震災の時に、命令があるまで待機するだけでしかなかった自衛隊の姿とはとても思えない。

あの時、自衛隊は、いち早く、現場に到着していた。そして、ただひたすらに、指令が出るのを待った。自主的には、動こうとしなかった。「動こう」と思えば、動けたのに。

5) 単なる援助物資の運搬でないことは、輸送機の装備からも明らかに

現地で活動した自衛隊員には、初めから、単なる援助物資の運搬ではないことが、解っていたという。
 
現在、国に対して訴訟中である、元自衛官は、「非戦闘地域に派遣するという政府の説明がうそなのは輸送機の装備からも明らかだった」と話す。

だが、箝口令が敷かれ、国民には何も知らされなかった。知る方法もなかった。そのことがかえって、余計に自衛隊員を苦しめることになった。おそらく、一番身近にいる、家族にも、話すことが出来なかったのであろう。

精神的な苦痛は、計り知れないものがあったと思られる。こうしたことの調査が行われたのか、行われていないのか。それすらも分らない。
もちろん、調査結果があったとしても、公表はされないであろう。

内部告発もあった。だが、その自衛官らには、懲戒処分が、取りざたされたという。

6) この記事は、時宜にかなった、良質な記事

安倍首相が推し進める、集団的自衛権の行使の容認のための閣議決定が、今日、行われる、と報じられたいる。特定秘密保護法の施行も、近いうちに行われる。

そうなれば、当然、自衛隊員による内部告発は、なくなる。マスコミも、このような記事を書く事すらできなくなる。国民は、目も、耳も、口も閉ざされることになる。

安倍首相の暴挙を阻止する必要がある所以である。


毎日の記者は集団的自衛権の行使を容認する閣議決定の議論が大詰めを迎え、足並みをそろえるように特定秘密保護法の施行の準備が進む。憲法9条を空文化する閣議決定と秘密保護法施行が一緒になると、何が起こりうるのか。』という目的で、この記事を書いた。

そして、『迫りつつある「自衛隊のブラックボックス化」の危険を探った。自衛隊のイラク派遣から10年。「人道支援」という政府の説明とは大きく異なる派遣実態が明らかになってきた」と冒頭で述べる。

ーーー普段は、マスコミの記事を、どちらかと言えば、非難するような論評が多い、投稿者の私であるがーーーこのような記事に接すると、個人では到底出来ない、組織としての偉大な力を感じる。

この記事は、時宜にかなった、良質な記事である。この記事を掲載した毎日新聞に、謹んで敬意を払いたい

(2014/7/1)