2014年7月21日月曜日

読書ノート:『日米の悲劇』=小室直樹を読む。

米戦艦とゼロ式戦闘機
1) 「真珠湾」(パールハーバー)と米国のトラウマ


「真珠湾」こそ日米関係の原点である。
真珠湾は、巨大な複合体(コンプレックス)となってアメリカ人の意識・無意識に蟠踞(いすわり)し、行動を呪縛している。


真珠湾より以前の米国は、戦争を実感できない国であった。外国から責められるなんて頭の片隅にもない国であった。国外の事に無関心な国であった。

真珠湾はアメリカを変えた。戦争を知らなかったアメリカは、戦争屋になった。
アメリカは、まったく別の国になり変わった。_

「まえがき」で、著者である小室直樹氏は、このように書いている。

2) 目次

1章 日米は、常に戦う運命にある
2章 世界国家アメリカが誕生した日
3章 帝国海軍の真珠湾攻撃は大失敗だった
4章 日本は、大東亜戦争に”不戦勝”していた
5章 現代の日本は旧日本軍そのままだ 

どれも、刺激的な言葉が並ぶ。
この本は、ある意味、「太平洋線争研究」と言って、いいぐらいである。それぐらい、太平洋戦争の話が、いっぱい出てくる。

新書版という小型の本であるが、この本には、太平洋戦争のエッセンスが、ぎっしりと詰まっている。
この本を読めば、相当な、”太平洋戦争通”になれることを、受け合う。

新書という軽装本であるが、中身は、決して「軽装」な本ではない。じっくりと読む価値がある。

3) 対米戦争は、「無謀な戦争」か

日本がおこなった対米戦争は、普通には、「無謀な戦争であった」といった評価がなされている。何故か。それは、日本人が、巨大なアメリカの経済力_現代のアメリカの事ではない_を知らずに、戦争に突入したからである。

だが、これは、とんでもないナンセンスである、と小室氏は言う。
当時の日本人は、巨大なアメリカの経済力の事をよく知っていた、からである。

「でも」と続ける。そして、言う。やはり、無謀な戦争であった、と。

何故か。それは、アメリカの世論の動向について、少しの研究もしていなかったからである、と述べる。

もし、当時の日本の戦争指導者が、少しでも、アメリカの政治がどういうものであるかを知っていれば_研究していれば_戦争は避けられた、と言う。

4) ルーズベルトは、戦争がしたい。が、国民の大多数は、戦争に反対

山本五十六大将
アメリカの大統領の権限は大きい。だが、それは、世論の基礎の上に、行使される。ルーズベルトは、心底、戦争がしたかった。

だが、当時のアメリカ国民の大多数は、戦争に反対であった。これが、世論の動向であった。そうであるから、ルーズベルトは、絶対に戦争が出来ない。

まして、ルーズベルトは、1940年11月の大統領選において、こう明言していた。

「重ねて、重ねて、重ねて、何度でも繰り返して誓うが、貴女がたの息子を戦場に送ることはない」

この言葉の持つ重要さ、重みは、・・・。そのことを理解しない、日本の戦争指導の「無知」さ加減は、・・・。

米国における政治家の、「公約の重さ」を理解しておれば、ルーズベルトに、譲歩させることが出来た。日本の政治家の、「政治知らず、外交知らず」が招いた結果である、と小室氏は述べる。

それはまた同時に、軍人らの、政治的無知が、招いたことでもある。だから、戦争のような国家の一大事を、軍人に任せることは誤りなのである。戦争は、_クラウゼッツが言うように_「政治の一形態」であるからだ。

小室氏の筆(ペン)は、冴えわたる。

5) 真珠湾攻撃で、アメリカの世論が、大きく転換した。

F・ルーズベルト
それを、真珠湾攻撃が、一変させた。
アメリカの世論が、大きく転換した。

ルーズベルトの勝利であった。これで、チャーチル_英国_も、同時に救われた。

その、真珠湾攻撃は、戦闘としては、大成功であった。
しかし、「大勝利であったか」と問われれば、そうではなかった。戦略が、不十分であった、と述べる。

如何にすれば、十分な攻撃が出来たか。
どうすれば、戦争の目的を達成することが、出来たか。

真珠湾攻撃の最大の失敗は、二次攻撃をしなかったことにある。
石油タンクを、そのままにしておいたことある。

そいて、真珠湾攻撃の目的である、_太平洋にいた_肝心の米国の空母艦隊を取り逃がしたことにある。
さらに、上陸して、ハワイを占領しなかったことにある。

それには、いかなる条件が付け加われば、可能となったか、という命題を立てる。
そして、その命題を解いていく。

6) 真珠湾攻撃は、アメリカの戦争観、世界観を、革命的に変えた

_初めて、自国が攻撃されるという、体験をすることになった_真珠湾攻撃は、アメリカの戦争観、世界観を、革命的に変えた、と小室氏は言う。

そのことが、今日の米国の世界戦略に、大きな影響を与えている、のだという。
世界の片隅で起きた、どんな些細な出来事でも、無関心ではいられないという、米国を作った。こう述べる。

だから、「侵略がある」と聞きつけると、世界中の、どこにでも出かけて行って、侵略の芽を、双葉の内に摘み取ろうとする。
これが、米国の宿あ(治癒することのない病)になった。

それは今も続いている。
この本が、現在の、日本の国民の必読書である、と思う所以である。

   (書籍案内)

『日米の悲劇』(新書版)  小室直樹著  

光文社  1991年刊

全266p

(2014/7/21)