2014年6月12日木曜日

フクイチの今(6)凍土遮水壁の工事は、汚染水対策の切り札となりうるか。

東京電力福島第一原発で、凍土遮水壁の本格工事が始まった、
と報じられている。2015年3月までに、凍結を開始する予定である、という。


「東京電力福島第一原発では五月三十一日~六月六日、汚染水問題の解決に向けた凍土遮水壁の本格工事が始まった。1~4号機周りに千五百五十本の管を地下三十メートルまで打ち込み、マイナス三〇度の冷却液を循環させて総延長一・五キロの地中壁を造る計画だ。来年三月の完成を目指すが、前例のない規模の工事となる」(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/condition/list/CK2014060702000169.html

建設費の319億円は、国が負担。維持費の、1万3000世帯分にあたる
電力使用量は、東電が負担する。
もちろん、これらは、最終的には、国民が負担することになる。

ところで、これは、原子力委員会が、一部着工を容認した結果、
始められた。全てを、認めた訳ではない。
だから、相変わらず、先行きは不透明。

先日のブログで、「工事の行方が不透明」と書いたが、状況は、
相変わらず、変わっていない様である。

 凍土遮水壁の本格工事の問題点

何故か。
この事について、日本経済新聞が、詳しく報じている。

問題点を要約すると、3点ある。
① この凍土壁は、運用が2020年まで、となっていること。
② 仮説であり、止水までの、応急措置である、こと。
③ 工事が成功したとして、本当に、地下水の流れを止めら
れるか、どうか、ということ。

①は、について。
問題は、2020年という、年にある。
これは、オリンピックが、開かれる年。

つまり、これは、汚染水対策というより、「オリンピック対策」
ではないかと、思われる。
安倍首相が、大見得を切った以上、せめて「万全の対策を
取っています」と、世界に発信したいため、ではないか。

要するに「見せかけの工事」ではないか、ということにある。

②について。 
凍土壁は、2020年までに、建屋に流れ込む、地下水の
侵入路を探し当て、止水する。それまでの、応急的な対策、
とされている。

だが、もし、この地下水の侵入経路を探し当てられなかっ
ときは、どうなるか。
それは、予定されて、いない。
私は、凍土壁で囲ってしまったら、侵入路を探すのが、かえ
って困難になるのではないかと、思う。

③について。
凍土壁で、完全に、地下水の流れを、止められるか。
凍土壁は、周りを囲うだけであり、底の部分は、空いたままだ。

仮に、周りからの侵入を完全に、カットできても、下から地下水
が侵入する可能性はないか。
水の流れは、予想出来ないのではないか。

また、上から降ってくる、雨水はどうなるか。
特に、これから、梅雨である。台風も来よう。
仮に、コンクリートで覆っても、浸透することは避けられまい。

* 地下水を凍土壁で止めても、地下水の汚染は止められない

以上は、凍土壁の工事に、直接関わることであるが、わたし
は、もう一つ、重要な視点が抜けている、と思う。

それは、地下水を凍土壁で止めても、地下水の汚染は止められ
ない、という問題である。

凍土壁で遮るのは、1000トンの地下水全体の内の400トン。
この400トンが、建屋に流れ込んでいる。
これを、カットしよう、という話。

残りのうち、300トンの地下水が、現在も、毎日海に流れ込んで
いる。(後の300トンの行方は、不明)
その地下水は、凍土壁を作っても、凍土壁の周りを流れ、海へ
注がれる。

その地下水が溶け落ちた「燃料のかたまり」で、汚染される
ことは、止めることが出来まい。

(工事が成功しても)そうなると、今度は、少なくとも、300トン+
400トン(建屋に流れ込んでいた分)の汚染水が、海へと流れ込む、
ことになる、のではないか。


ところで、現在、汚染水ばかりが問題にされているが、溶け落ちた燃料が
、どこに、どういう形であるのか、不明である。(あるいは、東電
は、解っていても、公表していないのかもしれないが。)

下に貼り付けた、youtubeの動画を、ごらんあれ。






もし、佐藤氏の説明の通りであるとすれば、凍土壁は、工事自体が、
無意味ではないか。

凍土壁は、仮に成功したとしても、対処療法でしかない。
根本的な解決をするには、まずは、一日も早く、溶け落ちた燃料
が、どういう形で、どこにあるのかを、明らかにすることである。


         *以下は、日経の記事の抜粋


『ただ議論から見落とされがちなのは、凍土壁があくまで仮設の施設である点だ。計画では2020年度まで約7年間は凍結を維持するが、それまでに建屋に地下水が流れ込む場所を探し出して止水工事を施し、後に解凍するとしている。凍土壁は止水工事までの間、地下水流入を抑制するつなぎの対策なのだ。・・・

そうなると、問題は止水だ。「7年間で高レベルの汚染水がたまる4つの建屋を止水できるだろうか」と嘉門名誉教授は話す。

 仮に汚染水が抜けたとしても、建屋内部には放射能で汚染された泥がたまっており、容易に人が立ち入ることはできないだろう。福島第1は廃炉に3040年以上かかるとされる。壊れた原子炉本体と変わらぬほど汚れた建屋地下の除染には、廃炉にも相当するような長い年月がかかる可能性がある。
 ・・
 7年後までに止水ができなければどうするか。仮設施設のままで凍結を続けるか。あるいは「比較的高い遮水能力を持ち、維持・管理が容易な粘土による遮水壁への入れ替えを行うことも検討すべきである」と汚染水処理対策委員会の報告書にある。

 逆に、何らかの原因で凍土壁がうまく機能しなかったらどうするか。この場合も同報告書は「粘土による遮水壁の設置を検討すべきである」とする。

 つまり凍土壁がうまくいってもいかなくても、「賞味期限」は7年ほどしか見込まれていない。7年を超えて使うには、腐食が予想される凍結管の交換などが必要になる。そもそも維持コストなどからも半永久的に使える性格の設備ではない。さらに凍土壁を設置してからでは、施行スペースが狭くなり、恒久的な施設の建設が難しくなる恐れもある。

 東電は規制委への説明で、「現場の作業環境、放射線を含めて施行性をかなり重視した選択」(松本純・原子力・立地本部担当部長)とする。被曝や汚染を考えると、今すぐ施工するには粘土やコンクリートの恒久的な壁ではなく、ボーリングで穴をあけて管を埋め込むだけで済む凍土壁の方がよいとの立場だ。確かに作業員の安全対策は重要だ。

 ただそうした点を考慮しても、凍土壁でよかったのかとの疑問は残る。いずれは恒久的な壁をつくらざるをえないからだ。
 「凍土壁は結果的に汚染水問題の解決を先送りするもので、無駄なお金を投じることになる」と浅岡顕・元地盤工学会長(名古屋大学名誉教授)は指摘する。・・・
凍土壁については、その決定時期や20年度までという耐用年数から、背景にオリンピックという要因をみるのはうがち過ぎだろうか。また政府の財政出動が東電の直接支援ではなく技術開発を名目にしており、あえて「チャレンジングな」対策でなくてはならなかったからとみる向きもある。

 7年後に恒久的施設への入れ替えが必要になった時、東電や政府の関係者はどう説明するのだろう。凍土壁がうまくいかないから恒久的な壁をつくるのか、うまくいってもつくらざるを得ないと説明するのか。

 凍土壁への期待が高いだけに、政府や東電は地域住民や国民に対し正確な情報を伝え、ていねいに説明すべきだろう。東電や政府は福島事故でこれまでもコミュニケーションの失敗を繰り返してきた。汚染水対策の切り札として期待が高い凍土壁だが、限界のある対策としてみておく必要がある』

(日本経済新聞: 園田 淳さんのブログから転用させて頂きました)
http://blog.goo.ne.jp/tanutanu9887/e/f07ac8de4200535c2192c71cf37a56c6