2015年11月8日日曜日

2・1ゼネスト中止の背景「共産党と産別会議の”思惑”が存在」

<正村 戦後史(38)>
「2・1ゼネスト中止」には、背景がありました。今回は、その背後について観ていきま
す。そこには、共産党と産別会議の「思惑」が存在しました。


この「思惑」こそが、「2・1ゼネスト」を中止へと追いやった、「真の原因」でした。


 共産党とリベラル・デモクラシーの原則

≪占領軍の与えたリベラル・デモクラシーによってこそ共産党が活動の自由を得たという事実があるとはいえ、共産党の立場はリベラル・デモクラシーの原則と本質的に対立するものであり、占領軍の背後にアメリカの政府および国民の関心とも正面から対立する性格を持っていた。

共産党幹部は、この対立に十分気づいていなかったか、または気づいていてもその事の深刻な意味を直視することを避けていた。

・GHQにとって、みずから与えたリベラル・デモクラシーが共産党の伸長をもたらしたという事態は、深刻なジレンマであった。リベラル・デモクラシーの原則を取る以上は共産党の政治活動を禁止することは困難であり、それが公然と武力闘争を唱えてデモクラシーを否定しているのでないとすればなおさらそうであった。

さらに、闘争手段としての労働者のストライキの権利を一般的に否定することには大きな問題があったし、抵抗が予想された。GHQは、さしあたり、政治的目標を掲げたゼネラル・ストライキの是非といった一般的原則をめぐる論議に立ち入ることを避け、「現下の困難な情勢下でこうしたゼネストを行うことは国民生活の致命的な破壊をもたらす」という点を力説し、ゼネストを計画している左翼勢力をより広い国民から遊離した存在として印象付けようとした。

(涙をぬぐう伊井弥四郎共闘議長)

・2・1ゼネスト中止は、共産党と産別会議の革命主義路線を挫折させた。それが挫折したのは、直接には占領軍権力によって阻止されたからであったが、もっと基本的には、労働運動の高揚の基盤をなしていた大衆の要求や意識の実態と共産党および産別会議の戦略および戦術との間に大きなズレがあったからである。

・2・1ゼネストへ向けての高揚は、共産党の革命主義路線の有効性と正当性を実証しつつあるように見えたが、それは実は表面的なものであり、一時的なものであった。現実は共産党員の多くが考えたほどには「革命」に向かって動いていなかった。

第一に、労働運動そのものが、全体として革命的情勢へ向かって高揚していた訳ではなかった。

・2・1ゼネスト計画へ向けての闘争は、直接には、前年の10月闘争前後に、民間主力労組がそれぞれ一応の待遇改善を獲得した後にとりのこされた官公庁と官業の労働者の待遇改善闘争として始まった。

革命そのものを自己目的化しがちな共産主義者たちと違って、一般大衆の意識は経済要求そのものに主としてむけられたから、ある程度の妥結が得られば戦線から離脱するのが当然であった。

2・1ゼネスト計画は、現実には、民間主要労組の闘争がおおむね収束し、高揚期が過ぎた後で組み上げられていったのである。

第二に、共産党や産別会議はゼネストを通じて民主革命を実現することこそが生活改善の道だと説いが、現実にはゼネストが日本経済に大きな打撃を与えることは否定できなかった。

このような、革命という政治目標を優先して手段を選ばない共産主義者の戦術は、労働運動をより広範な国民から孤立させる危険を含んでおり、労働運動の活動家のあいだからも批判勢力を生み出す可能性を持っていた。

共産主義者のこうした戦術は、日本だけでなく、戦後のフランスやイタリアでも同様に示されており、そして同様の批判を招いて失敗に終わっている。日本では、2・1ゼネスト中止は、産別会議系の労働運動が内部の批判勢力の台頭と強化のよって自己崩壊へと向かっていく出発点となった。≫


 内部の批判勢力の台頭と、組織の「自己崩壊」

ゼネストが中止に追いやられた「真の原因」が、「大衆の要求や意識の実態と共産党および産別会議の戦略および戦術との間に大きなズレ」にあったということは、その後の日本の政党の活動についても、いえることではないでしょうか。

その結果が、「社会党の消滅」となって表れた、と言うことが出来ると思います。

そして、それを「巧妙に利用」して、「生き残り」を図ってきたのが、自民党でしょう。


「内部の批判勢力の台頭と強化」が、組織を「自己崩壊」へ向かわせる、という問題は、今日の日本の政党にとっても、大きな問題になってきています。

もし、これが、日本の、日本人の「特性」であるとすると、これは、大問題です。

対抗する組織との「競争」ではなく、自分の組織内部からの「反乱」によって、その組織が崩壊へと向かうことになると、すべてが「空中分解」を起こしてしまいます。


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            ――「お知らせ」――

今回より、この「web読書会」を、≪さとるの「日々彩々」≫より、ここに移すことにしました。

この「web読書会」を独立した「サイト」にすることで、より充実したものにしていきたいと、考えています。

これからも、どうぞ、よろしくお願いいたします。


*次回は、「番外編」で、「ロイヤル演説」を取り上げます。これは、ロイヤル陸軍長官(当時)の、「日本の占領」に関する演説です。

(2015年11月8日)

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