2015年6月7日日曜日

安保法制審議 稲田朋美氏の見解どおりなら、審議自体が無効


二階氏につづいて、今度は、自民党政調会長の稲田朋美氏が、講演において、参考人の学者の見解を否定した。

衆議院憲法調査会の参考人による「安保法制案は、憲法違反である」という見解が、大きな波紋を呼んでいるようだ。朝日新聞が伝えている。

「憲法解釈の最高権威は最高裁」 自民・稲田氏=朝日デジタル



 稲田氏が講演で話した内容

記事の伝えるところによれば、稲田氏が講演において話した内容は、次の通り。
集団的自衛権の一部の行使を認めるのは、憲法違反という憲法学者の意見が出たが、憲法違反ではない。憲法9条のもとで、できるだけのことをやったのが平和安全法制。9条の解釈のもとで国民の命と平和を守るためにできるだけのことをやる。これは政治家として当然の責務だ。憲法解釈の最高権威は最高裁。憲法学者でも内閣法制局でもない。最高裁のみが憲法解釈の最終的な判断ができると憲法に書いている。・・・
これを要約すれば、以下のようになる。

① 安保法制案は、憲法違反ではない。
② 憲法解釈の最高権威は、最高裁。
③ よって、最終判断をするのは、憲法学者でも内閣法制局でもない。

◆ 15人の裁判官のうち、4人が「違憲」という判断をした

稲田氏がいうように、最高裁が最高の権威という事になれば、以下のようなことになる。

2013年7月におこなわれた、参議院選挙は、一票の格差が最大4.77倍であった。
このことについて、2014年11月26日、最高裁は、「違憲状態にある」という判決をだした。

その理由について、最高裁大法廷は、「憲法違反の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった」、とした。
「違憲」の一歩手前となる、「違憲状態」と認定した。
ただし、選挙の無効(やり直し)の請求は退けた。

この判決では、15人の裁判官のうち、4人が「違憲」という判断をした。
また、一人は、「無効」という反対意見をだした。
昨年の参院選は「違憲状態」 一票の格差巡り最高裁判決=朝日デジタル

同じく、2013年11月20日、第46回の衆議院選挙について、最高裁判所の大法廷は、一票の格差が是正されない状態で選挙が行われており、「違憲状態」である、と述べた。
だが、選挙自体は有効である、とする判決を下した。

最高裁大法廷は、判決で「昨年の衆院選の区割りは憲法が求める投票価値の平等に反する状態にあったが、それが合理的期間内に是正されなかったとはいえない」と指摘した。
12年衆院選は「違憲状態」 1票の格差で最高裁=日本経済新聞

ここでいう、「合理的期間内に是正されなかったとはいえない」というのは、区割りについて、見直すだけの十分な時間があったとは言えない、という意味である。

だから、最高裁は、「今後も選挙制度の整備に向けた取り組みが着実に続けられていく必要がある」とした。(注①)

◆ 現在の衆参両議員は、憲法違反的な存在である

さて、2014年12月14日に、第47回の衆議院選挙が行われたことは、記憶に新しいところ。
では、この衆議院の選挙では、前回の46回に「違憲状態にある」と言われたことについて、是正がおこなわれたといえるであろうか。

2013年の最高裁判決がいう「選挙制度の整備に向けた取り組み」が、しっかりと行われた後に、実施された選挙であった、といえるのであろうか。

もし、そうでないとすれば、次のようにいう事が出来るだろう。

今回の安保法案は、「違憲状態」にあると最高裁が判断した衆参両議院の議員らにより、審議され、「法律」となる。
と、こういうことになりは、しないか。

そして、稲田氏のいうように、憲法解釈の最高権威が、最高裁にあるのであれば、現在の衆参両議員は、憲法違反的な存在である、ということになるであろう。

そのような議員に、この法案を審議する資格があるのか。
その事こそ、問われなければならない、ということになりはしないか。


(注①)

今回の最高裁大法廷判決は、投票価値の較差が違憲状態にあることを認めつつ、是正のための合理的期間が経過していないとして、選挙を有効とした。違憲状態にあることを認めたことは当然であるが、2011年大法廷判決から1年9か月が経過していれば、1人別枠方式を廃止して新しい選挙区割りを作成するには十分な時間があったはずである。ところがこの間、国会は、最高裁が求めた新しい選挙区割りとは無関係の定数削減論で紛糾し、結局上記のような0増5減の定数調整を内容とする弥縫策をなすにとどまり、投票価値の最大較差は2.304倍から2.425倍に、また較差2倍以上の小選挙区が45選挙区から72選挙区に拡大した。

最高裁判所(大法廷、裁判長・田中耕太郎長官)は、同年12月16日、「憲法第9条は日本が主権国として持つ固有の自衛権を否定しておらず、同条が禁止する戦力とは日本国が指揮・管理できる戦力のことであるから、外国の軍隊は戦力にあたらない。したがって、アメリカ軍の駐留は憲法及び前文の趣旨に反しない。他方で、日米安全保障条約のように高度な政治性をもつ条約については、一見してきわめて明白に違憲無効と認められない限り、その内容について違憲かどうかの法的判断を下すことはできない」(統治行為論採用)として原判決を破棄し地裁に差し戻した。・・
★ 衆議院選挙定数配分に関する最高裁判所大法廷判決についての会長声明=日本弁護士連合会

(2015年6月7日)