2018年10月26日金曜日

書写素材としてのパピルス ナイルの賜物(Ⅳ)

★30~31・パピルス草は丈が高く、葉がふさふさとした植物で、てっぺんに花を咲かせる。最適の生育環境だったナイル河口のデルタ地帯では、丈が50㎝近くまで伸び、茎
の太さは6㎝もあった。

・エジプト人は茎の中心の柔らかな部分を生でたべたり、食材にしたりしていた。流れのよどんだ浅瀬を行く小船は、パピルス草の茎を編んで作られた。隙間は樹脂でふさがれた。

縄や帆や籠をつくるのにもパピルス草が使われた。

・パピルスに最大の評価が与えられたのは書写素材としてである。パピルス草の茎は玉ねぎのように剥け、緑の表皮を剥がした内側の表皮は約20層からなる。

これを堅いなめらかな台の上で剥がし、一枚すつ少しだけ重なるようにして並べていく。次の一枚も同じように表皮を剥いた髄の薄片を一枚ずつ、最初に並べたものの上に直角に交わるように置く。

(そうすると)繊維が絡み合うようになる。

こうしてできたものを湿らせてから数時間おもしで押すなり槌で叩くなりしてくっつける。切りたての茎を使っているので樹皮が糊の役目を果たす。

小麦を練ったものが追加の接着材がわりに持ちいられた。
次に表皮も好みのなめらかさが帯びるまで石や象牙のカケラや貝殻でこする。

・最上のパピルスは、白い色をしていたが、経年によって黄ばみを生じた。墓室の壁画でパピルスが黄色く描かれているのはそのためである。

・パピルスの一枚一枚をつなぐと長い記述に適した巻物が出来上がる。通常の長さは一巻につき20枚といったところだが、文書によっては10mに近い巻物が作られることもあった。

★31~32・書写素材に植物を利用したのはエジプト人だけではなかった。

葉に文字を刻みつけることは殆んど準備がいらないので、これが最古の筆記様式だと考えられている。植物の葉は石や粘土板細工よりも運ぶのがずっと簡単である。インドやスリランカでは棕櫚(しゅろ)の葉に文字を書く習慣がk、近代の間近まで続いていた。

・「タパ」=これはポリネシア語で「樹皮紙」を意味する。この語義と、紙の最初の素材の1つだった桑科の植物の樹皮を叩いて薄くするという製法からタパは、よく神と混同されることがあるが、こちらは叩いて薄く伸ばすのであって、紙のように、もとの素材を完全にばらばらにして無作為の模様が出来上がるのを待つのとはちがう。

・イチジクやパンノキなどの樹皮から書写材料が作られることもある。6㎝の茎一本を叩きつぶせば、30センチのタパ紙が一枚できる。

・タパは今も熱帯諸国の生産物で、東南アジアでは、-4000年から使われており、ペルーでも、-2100年には使用されていた。現在もアフリカ、太平洋沿岸、中南米で作られているタパは、主として布になる。

・エジプトのパピルスは世界に輸出されるほど貴重な商品となった。それがパピルスの突出した所である。

・発見された最古のパピルスは、-2900年から、ー2775年にかけて作られたもので、その品質のすばらしさから、エジプトではそこに記された年代よりだいぶ前から、おそらくー3000年頃からパピルスの巻物が作られていたと歴史家は推定している。

・これは、シュメール人が、粘土板を書写素材として使い始めたときから、数世紀しかたっていない。

★33・パピルスが生育するのに最適な環境にあるのは、ナイル川のデルタ地帯の一定の区域のみで、そこでは書字素材を作るのにぴったりの太さにまで育った。

だから、パピルスの需要が地中海一帯で増えても、その生産は相変わらずエジプト人の独占状態にあった。

・つまり、パピルスの値段は、エジプト人の意向次第ということになり、結果としてパピルスは石や粘土板より実用的な書写素材でありながら、同時に高価な書写素材でもあった。

・パピルスが、現代に至るまで何千年も残る事を許す環境は、エジプトのような乾燥気候地域にかぎられ、エジプト以外でパピルスが発見されたのは、死海に近い砂漠の洞窟ただ一つである。

これが「死海文書」として知られるヘブライ語の写本郡である。

(『紙の世界史 歴史に付き動かされた技術 』<1章 記録するという人間だけの特質>第2回目

(2018年10月26日)