2018年10月18日木曜日

『 紙 の世界史 』第1章 人間と記録 (Ⅱ)

『 紙 の世界史-歴史に突き動かされた技術ー 』第1章 記録するという人間だけの特質

 21 ・人類が地球上に現れたのは500万年から350万年まえで、
どの段階で人類と認めるかによって幅があるが、いずれにせよ書くことが始まったのはわずか5000年まえ(で)、人間の歴史の99・9%は書くことをしないで生きてきたことになる。

・コミニュケ―ション。これはなにも人間の専売特許ではない。さまざまな動物が音で、ときには音楽をつくることまでして意思の疎通をはかっている。

ところが、まちがいなく人間にしかない特質がひとつある。それが、「記録だ」。人は自分の行為を、感情を、考えを、思いつきを記録する。

頭にはいってくるものを片っ端から記録し、未来の世代のために保存したいという衝動に駆られる。この衝動が紙の発明をもたらした。

石や粘土板や板や樹皮や獣皮など、紙以外にも記録の道具はあったが、紙が作られようになると競争相手がいなくなった。

22・知識の実践的応用=テクノロジーの普遍的な定義にもとづけば
      ↓
人類初のテクノロジーである、生活の基本道具と話ことばは同時に発達してきた、と言える。
      
この人類初のテクノロジーの飛躍的進歩は、後続のテクノロジーと同様、社会を変えたのではなかった。むしろ人間の頭脳が拡大したことが、より組織化した社会の形成につながった。

 
・其の結果、社会のほうが建造や狩猟に必要な道具を、そして話し言葉という飛躍的進歩を求めた。

立証する方法はないが、おそらくはそのころの初期社会にも、発話による意思の疎通の新しい習慣が生活の質をそこなおうとしていると、まさにその新たな能力を使って他者に警告を与えた小人数の人間はいただろう。

*もはや沈黙はなくなる。人は絶えず命令をあたえるようになる、と。
*人間は真の表現能力を失って、この安易で自体のない新たなテクノロジーに頼るようになるのだ、と。

22-23・-50000年(数字の前の「-」、は紀元前、を示す。以後、同様)には、すでに線画が描かれていた。

蒙恬には申し訳ないけれども、獣の毛を束ねたもので石に色を塗りつける方法もすでに知っていたのではないか。

・最初の線画は文字の原初の形である絵文字に似ており、数本の線で対象を表していた。

*フランスのラスコー洞窟=-15000年、2000点
*スペインのアルタミラ洞窟=-13000年頃
*フランスのニオー洞窟=さらに年代をくだった壁画がある
  ↑
これらは、
美しさより躍動感、などのきわっだ印象がある。
静止画なのに、動き、が描写されている、ように感じられる。

ラスコ―洞窟では、ありとあらゆる動物が跳び駆けている。

フランスのラスコー洞窟に描かれた壁画
スペインのアルタミラ洞窟

フランスのニオー洞窟

・壁が描かれた時代は、人類の長い歴史のなかでは一瞬の出来事にすぎななくても、18世紀の啓蒙思想と19世紀の産業革命を決定的に区別する現代人からすれば、気が遠くなるほどの大昔のこと、
である。

壁画は、

*この人たちは何者なのか?
*彼れらは確立した言語をもっていたのか?
それとも最小限の実用的な言語表現があったふぁけなのか?
*想像でこれらを描いたのだろうか?
*わたしたちのために残したのか?
*これらは意志の疎通を目的としていたのか?
などの疑問を起こさせる。

また、壁画と信仰の関係を指摘する説や、あるいは星座を表している、という説もある。


・意志の疎通をはかりたい、記録したいという衝動は原始の本能である。
描きたいという衝動は人間にしかなく、人間ならだれでももっている。

人はなぜ無意識にいたずら描をするのか?
子供はなぜ話せるようになると同時に、教えられなくても、なにかを描きたいという欲求を覚えるのか?

(※この章は、まだ続きます。文頭の数字は、前回と同様で、本のページを示しています。)

(2018年10月18日)