昨日は、安倍首相の「早く質問しろよ」というヤジがあり、紛糾した。このことの原因は、安倍首相もさることながら、国会法61条にある、と思う。この点について思うところを書いてみたい。
昨日、審議中に盛んに飛び交った言葉がある。『時計を止めて』という言葉だ。
なぜ、こういう言葉が出てくるのか。どうやらそれは、質問者と答弁者を含めて、質疑、討論その他の発言につき、時間制限があらかじめ設けられていることにあるようだ。
先に、この特別委員会についてみておこう。
この特別委員会の構成は、全45人にたいし、自民・公明の委員が32人を占める。
・安保国会、怒号・ヤジで開幕 審議後半には退席相次ぐ=朝日デジタル
◆ 特別委員会の構成は、全45人にたいし、自民・公明の委員が32人
この構成は、国会の議席数に応じて、決められたものであろう。
そうであれば、当然に、自民・公明の委員が、多数を占めるわけである。
少数政党は、委員会事体にも参加できない、ということになる。
はたしてこれで、本当に国民が知りたいと思っていることが、審議の過程のなかで、明らかになるのであろうか。
まして、現在の与党、特に自民党は、安倍首相に力が強い。
今月12日の、安全保障関連法案について、自民党の総務会は、反対者は一人もいない。
ただ、村上誠一郎氏が一人異議を唱えたが、途中で退席。
結局、「全会一致」での了承となった。
・自民、安保法案を了承=村上氏退席、15日に国会提出=時事ドットコム
公明党については、この法案について、中央幹事会で了承をしている。
公明党への偏見かもしれないが、中央幹事会の議決に異議を唱える議員はいないであろう、と思う。
もし、この仮定に間違いがないとすれば、与党の自民・公明には、誰ひとり、今回の安保法制案に反対する議員はいない、ということになる。
その自民・公明が、32人も含まれる議会審議において、どれだけこの安保法制案の疑問点に迫ることができるのか。
大いに疑問である。
◆ 安倍首相が、「早く質問したらどうだ」と述べた真意は、どこに
昨日の安倍首相の「ヤジ」がマスコミをにぎわせている。
何故、安倍首相は、NHKの中継が入って、日本の多くの国民が注視する中で、あのような発言をしたのか。
このことを考えてみたい。
このヤジについて、安倍首相は、辻元議員が延々と自説を述べて、私に質問しない。
だから、早く質問したらどうだと言った、とその理由を説明した。
・早く質問しろよ! 首相、辻元氏にヤジ 審議中断=東京新聞
これはどういうことなのか。
安倍首相が、早く質問したらどうだと、述べた真意はどこにあるのか。
安倍首相がこのヤジを飛ばしたのは、辻本議員が質問を始めて、3分50秒が経過した時点においてであるとされる。
もし、これが正しいとすれば、「早く質問しろよ」というヤジも理解できる。
なぜなら、この審議においては、議員の持ち時間が3分間と決められているいうなのだ。
あるテーマについて3分間で質問をする。
それに対して、3分間で答弁をする。
こういったルールになっているようなのだ。
この私の推察が正しいのかどうかは、正確にはわからない。
だが、野党議員の中には、ストップウオッチを持ち込んで、答弁の時間を図っているという情報もある。
だから、私の推察は、当たらずといえども遠からず、であるとおもう。
これは、国会における審議に制限時間が設けることができる、という事に理由がある。
国会法は、その第六十一条 で、次のように規定している。
各議院の議長は、質疑、討論その他の発言につき、予め議院の議決があつた場合を除いて、時間を制限することができる。そして、この制限は、答弁者も含めてのことらしいのである。
○2 議長の定めた時間制限に対して、出席議員の五分の一以上から異議を申し立てたときは、議長は、討論を用いないで、議院に諮らなければならない。
○3 議員が時間制限のため発言を終らなかつた部分につき特に議院の議決があつた場合を除いては、議長の認める範囲内において、これを会議録に掲載する。
つまりは、質問者と答弁者のそれぞれ、時間が割り当てられているのではなく、両者の合計時間 が決められている、という事のようなのである。
だから、野党側からは、安倍首相の答弁が長すぎる、という異議が出る。
一方、安倍首相側からすれば、「自説」ばかり披露しないで、答弁の時間をつくれ、となる。
議会が紛糾すれば、ただちに「時計を止めてください」となる。
現在も、時計が止まったままである。
◆ 時間を限っての審議になじむような法案ではない
いったいこれで、まともな審議が出来るのか。
何故、時間を限る必要がある。
今回の法案は、この日本の今後の進路に大きな変更をもたらすものである。
それだけに、慎重で、しっかりとした議論、審議が必要とされる。
だから、時間を限っての審議になじむような法案ではない。
今からでも、時間制限を取り去るべきだ。
そうすれば、お互いに、ゆとりを持って、質問し、答弁をすることができるだろう。
安倍首相も、言いたいことは、存分に述べればよい。
その代わり、野党側にも、その権利を認めるべきであろう。
まして、野党側は、委員の数の上でも、与党と大きな開きがある。
その分、時間を十分に保障することで、「少数の意見を大切にする』という民主主義の理念を生かしてもらいたい。
今回のヤジについては、マスコミの論調は、安倍首相のヤジ自体を問題視するものが多い。
もし、安倍首相のヤジと同時に、審議のやり方、時間制限が設けられている、というようなことについて、もっと詳しくマスコミが記事にしていれば、このヤジへに見方が変わるのではないか。
別に安倍首相を擁護したいわけではないが、事実を正確に知ることは重要である、と思うので記事にしてみた。
(関連サイト案内)
・アメリカ連邦議会上院における立法手続=松橋和夫
※ 2015/5/30 加筆しました。
(2015年5月29日)