随分前に出会った本である。
「啓蒙書」と言っていいと思うのだが、他の物とは違い、全体で700ページある。
ただ、紙面が、本文と、注釈文とに分かれているので、注釈の部分を取り除く必要がある。
以前に図書館で見かけて、借りて読んだ。
かって、建築関係の仕事をしていたこともあり、目に留まるとすぐに、引き出していた。
本の厚さは気にならない。
元々、とにかく厚い本が好きだ。
分冊になっているものではなく、一冊で、700ページぐらいの本を読むと、大きな事業をやり遂げたような気になる。
20代のころに読んだ、トルストイの「アンナカレニーナ」がそうだ。
河出書房のもので総ページ数700、しかも、10・5ポイント活字だ。
ゆうに、普通の本の3倍の厚みがある。
挿絵はほんとんどなく、活字だけがぎっしりと詰まっている。
それを、日に30ページと決めて、読み進めていく。
日を追うにつれて、右手でささえる部分の方が、厚くなってくる。
その快感がたまらない。
その際に、読み進めるペースを変えないことが肝心だ。
今日は調子がいいからと、いつもより多く読み進めるとダメだ。
その日はいいが、次の日に影響する。ペースが狂い、読み進めることがだんだんと、困難になってくる。つまるところ、途中で投げ出すこととなる。
読み終えると、しばらくは、放心状態になる。
以前の私は、一冊主義だったので、一月あまりのあいだ、その本にかかりきりになっていたことになる。
一冊を読み終えるまでは、他の本は読まない。
どんなに長くても、その本を読み終えないと、次がない。
余談だが、「戦争と平和」も読んだが、私には、「アンナカレニーナ」の方が傑作に思えた。
そういう訳で、この本を手に取ることになった。
その時は、全てを読むことはなく、前半の、建築に関するところのみを読んだ。
数寄屋などに関する部分である。
しかし、この本は、全体としては、日本の国における人間と自然、また、日本とアジア・欧米等との共存を説いたものである。
阪神大震災の経験から、日本に太平洋ベルト地帯のほかに、日本海ベルト地帯の建設を提唱している。
そして、そうすることで、日本をぐるりと一つの輪にすることを目指している。
これまであまり重要視されてこなかった、北九州、山陰、新潟、北海道を一つの線で結び、それを、太平洋側と結ぶ、という訳である。
これで一つの循環が出来る。
この日本海ルートは、かっては、北前船(きたまえぶね)でにぎわったルートである。のちに、蝦夷地まで延ばされた。
火坂雅志の小説『覇商の門』等でお馴染みである。
地方の時代であると言われる。
地方分権を声高に叫ぶものもある。
道州制を言う人もある。
その根底には、やはり二元論がある。
そうではなく、二元論を克服して、都市と田舎の「共生」を図ろうというのが黒川氏の論である。
あくまでも、「都市と地方の対立」を排除しようとするものだ。
もちろん、地方の独自性を排除することなく、というものである。
考えてみれば、かっての日本はそうであった。
江戸時代においては、各藩は制約された中で、独自の産業を発展させてきた。
その名残は、今日でも顕著である。
もし、5杯の船が来るのがもっと遅ければ、日本は、もっと違った形で、世界と向き合っていたことであろう。
◆
若い時から、設計に興味があった。
それは建築に限らない。
自分の人生を自分で設計出来れば、というのが願いであった。
また、都市というか、町の設計にも興味があった。
一つの街を、丸ごと設計してみたい、と思ってきた。
道路を作り、並木を、植える。
住宅を整備し、町全体を統一する。
電線はすべて地下に埋めて、何かあるたびに、道路を掘り返すような事がないようにする。
そのためには、下水施設の整備が必要だ。
その下水に、線を這わす。全てをここで、操作するのである。
電線がなく、道路を始終掘り返すようなこともない。
落ち着いた景観の街を創造してみたい、と思っていた。
設計と言うのは、多方面にわたる。
機械などを作る場合も、設計思想という概念を使う。
この機械は、これこれのことをするために、こういう考えに基づいて、作られています、という訳だ。
例えば、戦闘機であれば、効率的に、相手を打ち落とすことが求められる。
ゼロ戦(ゼロ式戦闘機)は、軽さを追求した結果、類を見ない戦闘機となった。しかしその結果、防御に難点が出来た。
戦闘員の命を軽視した。優秀な飛行機乗りを養成するには、時間もお金もかかるのに、消耗品としか見なかった。その結果、「神風特攻隊」の創設となる。
ゼロ戦に手を焼いた米軍は、不時着したゼロ戦を徹底的に研究し、その弱点を見つけた。
それ以後は、レーダーなどの探査技術が進んだこともあり、「七面鳥落とし」といわれほど、
バタバタと打ち落とされることになった。
◆
黒川氏は、日本列島を一つの輪にすることを提唱し、また、アジアを重視する事の重要性について指摘をしてはいるが、直接に道路でアジアを結ぶことまでは、言及してはいない。
それを指摘したのは、ロケット博士で有名な、糸川英夫氏である。
これは日本列島と朝鮮半島の間をトンネルでつなぐ、というものだ。
実はこの設計思想は、戦前にもあった。
大東亜共栄圏という考えである。
日本列島、朝鮮半島、中国大陸、ビルマ、インドまで一本の道路で結ぶ大動脈を建設する、というものだ。
糸川氏は、この事が実現すれば、日本人の「島国根性」と言われる性根が、根本から変わるだろう、と述べる。
車一台で、日本の何処からでも、インドまで旅行出来るのである。
技術は、十分にある。
後は決断だけである、と氏は言う。これは氏の遺言でもある。
景気低迷が言われる。
この一大プロジェクトが実現したなら、雇用は産まれ、景気回復の起爆剤となろう。
少し筆が滑りすぎました、この辺で打ち切ります。この続きは、いずれの機会に。
(参考書の案内)
① 黒川紀章 『新 共生の思想』 徳間書店 1996年刊 710p
② 糸川英夫 『21世紀への遺言』 徳間書店 1996年刊 302p
『前例がないからやってみよう』 光文社 1979年刊
③ 火坂雅志 『覇商の門』 祥伝社
④ 坂井三郎 『大空のサムライ』 これは今、手元にありません
(2013-11-03 04:15:08)
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