2014年5月8日木曜日

児島 襄著『天皇』第2巻・・・張作霖の暗殺から天皇機関説事件まで

これは、昭和天皇の伝記です。
誕生から戦後処理までの、20年間を扱ったもの、です。

天皇の日常生活から、公務に渡って、事細やかに述べてあります。

この第2巻は、昭和元年(1926年)から、昭和10(1935)年までを取り扱っています。

  「張作霖爆死事件」は、鉄道爆破による暗殺事件。1928年。
  「浜口首相狙撃」は、1930年。
  「満州事変」は、日本軍による満州鉄道の爆破事件。1931年。

  「5・15事件」は、犬養首相の暗殺。 1932年。
  「国際連盟脱退」は、満州事変の処理に関わるもの。1933年。
  「陸軍士官学校事件」は、陸軍の青年将校による「未遂」事件。 1934年。

  「天皇機関説」は、美濃部博士の学説に対しての攻撃。1935年。以上が、主な内容です。
ここで、西暦と年号の換算の仕方を示します。(以後、このメモでは、西暦を使います)

西暦の、しも二けた、より、25を減ずると、昭和の年代を得ます。
1935年は、35-25=10年(昭和) となります。

逆は逆。
終戦時、つまり昭和20年は、20+25=45となり、出た数字の前に19を持ってくれば、西暦となります。 1945年というように。
この本は、
昭和天皇の伝記ですが、(上に示したように)同時に政治史も扱っています。
ですから、この本を読めば、昭和の政治史が詳しく分かります。

昭和の20年間が、5巻で記述されています。
伝記なので、年代順に記述されています。

ほとんど、著者の意見を交えず、淡々とした文章で、綴っているのが特徴。
もちろん、著者の「推量」らしきものは含まれますが。

著者は、「材料」を提供し、あとの判断は、読者自らに任せる、といった記述の仕方と取っています。
天皇というデリケートな相手を扱かうのだから、この態度は、無理からぬものがあります。

大正天皇崩御は、1926年12月25日。
1年の喪が明けるのを待たずに、「日本」は、張作霖を「だまし討ち」することによって、「戦争」への道を踏み出し始めます。

これは、昭和天皇にとっても、前途多難を思わせる「船出」となりました。
時に、天皇、御年、27歳。

張作霖に続いて、日本の国内では、浜口首相、犬養首相、井上元蔵相、団琢磨(三井理事長)と暗殺事件が、続いて起こされます。
また、1931年(天皇30歳) 9月19日に、 「満州事変」が起こされます。
日本軍による満州鉄道の爆破事件です。

この事変により、日本は、本格的に戦争の道を歩み始めることになります。
この事変をきっかけにして、万里の長城をこえて、上海、北京、南京と攻め言っていきます。

若槻首相は「陸軍は困ったことをする・・・・出先は出先で勝手なまねをする。なんともどうもいたしかたない。・・・」というだけでした。

「責任ある地位」にあるものを現地に派遣して、抑えることを全くしませんでした
飛行機を使えばすぐにもいけたのに、です。

一方、天皇は、「またか…・また、こういうことになのか・・』と苦慮する他になかった・・・、と著者は書きます。

事変に伴って起きた、朝鮮軍越境問題にも、「将来は注意せよ」と述べ、「軽度の処分」で良かろうという意向を示した、のみでした。

これがかえって、陸軍を、「増長させる」結果になりました。
さらに、民間人のみではなく、軍部の若手の将校による「暴走」も起きました。

「3月事件」が1931年に、続いて同じ年に「10月事件」が、「5・51事件」が1932年に、「陸軍士官学校事件」が1934年に、起きました。

「3月事件」は、大川周明らによるクーデター事件。
政党本部を襲い、首相を殺害し、議事堂を占拠し、軍による内閣を作る、という計画でした。
これは未遂に終わります。

「10月事件」は、三月事件を「焼き直した」ものです。
これも未遂に終わります。

5・15事件で、犬養首相が殺されたあとの、「陸軍士官学校事件」は、後の「2・26事件」の前触れ、となるものです。
戦車の使用まで、計画していました。

これらは、まったく、天皇の統帥権を干犯するものですが、「2・26事件」の時のような処置は行われませんでした。

天皇は、5・15後の組閣に当たり、西園寺に対し「首相は人格の立派な人物を選ぶ」ように、などとの指示を与えましたが、「朕の大臣を殺すとは何事か」とお怒りをあらわにされることまではなかった、ようです。

尚、5・15事件の処置は甘く、実行者らは、全て禁固刑で済まされました。

この10年は、流血、政治家の暗殺、民間人と軍人による陰謀・暗殺、「中国」との戦争の開始など、血なまぐさい時代でした。

今更ながらに、「何故、止める事」「が出来なかった」のかを、深く考えさせられました。

事件が、つぎつぎに起きるので、それにつられて、「息をつぐ暇もな」く読み進む、という感じになりました。

予想通りに、『日中戦争』の疑問点を充分に、補完してくれるものになりそうです。
3・4・5巻は、今、アマゾンで注文中で、配達を心待ちにしている所です。

著者        児島 襄 
発行所      文芸春秋 
発刊       1974年  第一刷    
買い入れ    「アマゾン」で、古書として購入

   (加筆  2014/5/6)