2016年9月25日日曜日

米国民よ、真珠湾攻撃を忘れて下さらないか

<児島 襄『講和条約』第1巻>

米紙「ニューヨーク・タイムス」特派員F・クルックホーンが天皇取材を希望していると、告げた──

ついては、その希望をかなえ、天皇に真珠湾攻撃を知らなかったと語ってもらい、米国につたえさせてはどうか・・・。




重光外相は、眉をひそめた。

3日前に、東条大将ら39人が戦争犯罪人として逮捕され、大将は自殺をはかったが、はたせなかった。

真珠湾攻撃すなわち日米開戦という重大事を、事前に元首が知らされぬはずがないし、現に天皇は告げられている。

ただし、立憲君主だから内閣の決定をくつがえすことはできない。戦犯問題に関しては、この天皇の立場を明らかにし、責任者が責任をとればよい。

天皇自身が政治責任の有無について発言するのは、立憲君主の地位に反するし、国民が天皇を守るという国体にもそぐわない。

まして、ウソは逆効果を生むだけである。(まさか、自身の責任逃れのために天皇をまきこもうとしているのでは、あるまいが)

重光外相は、そんな想いもさそわれて目を怒らせた。

同じく9月14日──

東久邇首相は、提出されていた『AP通信』東京支局長R・ブライスの質問書に回答したが、首相は、その冒頭につぎのような米国民あてアピールを特記していた。

「米国民よ。どうか真珠湾を忘れて下さらないか。われわれ日本人も原子爆弾による惨害を忘れよう。そして、全く新しい平和国家として再出発しよう。

米国は勝ち、日本は負けた。戦争は終わった。互いに憎しみを去ろう。これは私の組閣当初からの主張である」

このアピールは、まずかった。



日本は降伏からわずか一か月──米国内には、日本はナチス・ドイツとおなじ侵略国家だ、真珠湾はだまし討ちだ、日本人は「イエロー・バスタード」(黄色いならず者)だ、という戦時思想が消えていない。

「余は(東区時首相のアピールを)拒否する。この言明ほど、日本人が自己の行動および米国民の心理を理解していないことを、はっきりと立証したものはない」

国務次官D・アチソンが、AP電を一読して直ちに声明すると、マスコミはいっせいに非難と批判の鬨の声をあげた。

──日本は戦争を反則を数えあうレスリング試合と混同している。だいいち、真珠湾が原因であり、原子爆弾は結果である。

──ヒガシクニはポツダム宣言も降伏文書も読んでいないか、読んでも理解できぬイディオット(痴呆)である。

──占領政策が手ぬるい。だから、まだ処罰もすまないのに、日本は増長するのだ。(p、13-14)

 <児島 襄 『講和条約』 第1巻 全679貢>は、東京新聞紙上に連載されたもの。出版は「新潮社」で、発刊は1995年です。

(2016年9月25日)

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