2016年9月22日木曜日

鬼畜と教えこまれていた米軍は陽気でスマートだった

『講和条約ー戦後日米関係の起点ー』 第一巻

厚木飛行場に到着した第8軍司令官R・アイケルバーガー中将は、日本軍機がすべてプロペラをはずし、出迎える日本軍将校がいずれも丸腰姿であるのを見て、目をみはった。



先遣隊の報告によれば、横浜地区の日本軍は完全に武装を捨て、大森海岸には米軍専用の慰安婦施設が用意され、歓迎準備がととのっているという。

中将は唖然とした。

降伏条件と占領目的の第一眼目は、日本軍の武装解除であるが、それを日本側が自発的にすませてしまっているのである。

「われわれの仕事は無くなりましたな」
と、参謀長C・バイヤース少将がささやくと、中将もうなづいた。

「狼男は、実は羊男だったわけだよ」

日本側もおどろいた。

略奪暴行をほしいままにする「鬼畜」と教えこまれていた米軍は、陸兵も水兵も、陽気で明るくてスマートな印象をうける。


とかく暗くて固苦しく眼光が鋭い日本軍将校とは、文字通り雲泥の差である。

身体も大きく、服も上等で、見たことも武器を持ち、ジープをのりまわし、いかにも金持ち風である。チューインガム、チョコレート、キャンディ、タバコをおしげもなく、ばらまく。



「一億の純潔を護り、さらに国体護持の大精神に則り・・・・平和世界建設の一助ともなれば本協会の本懐とするところ・・・」
とは、特殊女性を集めた「特殊慰安婦施設協会」の趣意書である。

それほどの大使命とは考えられないにせよ、女性たちも悲壮な思いで米兵を迎えた。

だが、あらわれたのはカッコ良い若い外人である。



たちまち、戦前の米国映画が思い出されたらしく、その登場人物まがいに嬉々として米兵と腕を組み歩く特殊女性、さらには一般女性の姿が横浜にも東京にも出現した。

「性の防波堤」は瞬時に自壊した感じである。

米兵が投げ与える菓子にむらがる市民も目立ち、新聞は、批判した。
「乞食に落ちた浅ましい根性だ──なげられたものならふんでゆけ。チョコレートを踏むのもオツなものではないか」

そうはいわれても、久しぶりに対面する上等舶来の甘味品である。「菓子撒き」にむらがる老若男女は、絶えなかった。(p・11)

(2016年9月22日)

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