2016年10月8日土曜日

外務省、『ベルサイユ講和条約』とポ宣言第を参考に講和の内容を検討

<児島 襄『講和条約』第1巻>
ポツダム宣言は、日本が降伏条件を実行するまでは占領をつづける旨を規定する。
また、宣言受諾のさいの米国の回答が告げるように、占領軍は、「天皇及日本政府の国家統治の権限」は連合国最高司令官の「制限の下」におかれることに、なっている。


いいかえれば、日本は占領の終結とともに主権を回復して国際社会に復帰するわけだが、その場合には、ポツダム宣言も降伏文書も無効になっている。

日本と連合国との新たな国際関係を規定する法的協約、すなわち講和条約が結ばれなければ、日本は主権国家としての法的基盤を失ってしまう。

国家の主権は、それがおよぶ領土の確定を前提にする。

ポツダム宣言は、既述したように、第8項で日本の領土を本州4島のほかに「吾等の決定する諸小島」に限定した。

「吾等」が連合国を指すとすれば、その「決定」は対日講和条約によらざるをえない。

その意味でポツダム宣言第8項は、講和条約の締結がなければ実施できないということにもなる。

さらにいえば、講和条約を結ばなければいつまでも宣言の条項(第12条)に矛盾する・・・。

第二課が、以上の判断を下して講和条約の到来を確信し、外務省幹部も準備の必要を感じて、「平和条約問題研究会幹事会」を発足させた所以でもある。

ところでーー

講和条約にそなえるといっても、まったくの受け身の立場である日本にとっては、相手の立場がわからないだけに、研究すべき問題点も不鮮明である。


第二課は、とりあえず『ベルサイユ講和条約』とポツダム宣言第を参考にして、次の4点を検討の対象にした。

(1) 講和条約』の内容
(2) 講和条約』の方式
(3) 日本の参画の有無
(4) 講和の時期



(1) について、第二課はおそらく以下の8項目が条約にふくまれるのではないか、と推理した。

①平和機構(国際連合)への参加条項=日本が平和国家としての地位を与えられるためには、米英ソ連を中心とする世界的秩序に義務的に参加させられることが考えられる。

また、国際的経済、金融機構への参加を限定される可能性もある。

②領土条項=既述したように、必須である。

③賠償条項=主にアジア諸国にたいするものが、規定されるものと思われる。

ポツダム宣言第12項も、賠償取立てのための産業の維持が認められる、と述べている。

④債券・債務条項とともに、戦火を受けたアジア諸国にたいする日本の債務額とその支払い方法が、規定されるであろう。

ポツダム宣言第8項にともない、日本が割譲する地域における債権、財産の帰属についても規定され、また、占領軍の軍費負担の条項も加えられることも、考えられる。

⑤軍備制限条項=ポツダム宣言は、日本軍隊の解体(第9項)と再軍備に利用される産業の禁止(第11項)を規定している。

再軍備禁止とはいっていないが、軍事力さらには警察力さらには警察力の制限が講和条約の項目にはいるのではないか。

⑥工業制限条項=これも軍備制限に関連して推測され、範囲は商船、航空機におよぶ可能性がある。

⑦多国間条約の復活条項=日本は多数国との間に「郵便、電信、衛生、麻薬、工業所有権、著作権その他」の条約を結んでいた。

いわば”生活条約”である。これらは、日本の国際復帰に欠かせないだけに、講和条約に規定されるであろう。

⑧保障占領条項=連合国は、降伏条件の実行の保障のために日本を占領している。

「平和条約実施の保障として、(連合国が)帝国の一部を占領することがあると規定する可能性がないこともない」

第二課が列挙したこれら8項目は、しごく大ざっぱなものである。

講和条約で規定しなくても、①④⑦など別の法的処理ですむものもふくまれている。

また、第二課は⑧に強い関心を抱いた。(P・33-34)

(2016年10月8日)

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