特定秘密保護法が成立した。
この法案については、マスコミ等でも盛んに?論じられており、既にこのブログでも、何度か記事にした。
そこで、今回は違う視点から、考えてみたい。
「国家の機密とは何か」ということについて、である。
普通、我々が秘密と考えるものは、軍事機密であったり、特別の技術であったり、外交上の機密情報であったりする。
そして、それらの情報は、秘匿され、誰の目にも触れないように厳重に金庫などの保管されている種類のものである。
特別の人間のみが閲覧でき、その内容は、丸秘中のマル秘である。
それらが公表されると、国家の安全にかかわる、という認識である。
◆
例えば、第二次大戦の時の、真珠湾攻撃に関する事で考えてみよう。
この情報は、厳重に監視され、搭乗員に知らされたのでさえ、出港直前の空母「赤城」においてであった。それは、11月22日のことである。作戦の実行日までは、残すところ、18日間の時の事であった。
太平洋を横断中も厳重な通信の監視が行われた。
ところが米国は既に「開戦劈頭、日本が真珠湾を攻撃してくるであろうこと」を承知していた。
そのことは、プランゲの「トラ トラ トラ」に詳しく述べられている。(注①)
そのうちの一つで、ファーシング大佐のチームが行った研究では、「薄気味悪いほどの正確さで、12月8日に実際に起こったことを、ほとんど正確に予言している」と、プランゲはこの本で書いている。(P87~P88)
ところが実際には、真珠湾攻撃は「成功した」のであった。(「ルーズベルトの陰謀説」については今は置く)
何故か。
プランゲは言う。
アメリカは、「観念的には認めていたが、それを信ずることができなかったのだ」と。
また、当時「ルーズベルトは、日本が攻撃してくるかどうかについては疑問に思う」と考えていた、と。
つまりこういうことである。
情報は存在した。しかも、それは「完全に近いもの」であった。
ところが、肝心の、それを評価するものが、評価を間違え、判断を誤った、のである。
◆
この点に関して、藤原肇氏は、「インテリジェンス戦争の時代」という本の中で、次のように述べる。(注②)
『・・・・国家機構の頭脳中枢に相当しているものに、国際政治で指導性を発揮する人物が存在しないという事実があり、これこそ日本にとって最大の国家機密である。
国家機密にはマル秘のスタンプが押してあったり、極秘文書として厳重な管理をするために、金庫の奥にでも仕舞い込まれていて、限られたトップにしか閲覧できないから、秘密の存在は知られていないという印象を持つ。
しかし、真の秘密は文書や地図のようなものではなく、そのような情報にまつわるシステムを構成する、人的資源の質と組織化の内容に関わるし、その国の最高指導者の頭の出来具合にかかつている。
別の表現をするならば、情報の収集と整理や選択に関与する部分と、評価や総合されたものを絶えず準備して、指令と実践の責任を持つ執行部に至る、システム全体の人的ポンテンシャル(潜在的な力、とでも理解してください=投稿者)の内容が、その国家機密の核心部に相当しているのである。・・・」と。
要するに、国家の機密情報というものは、ペーパーに書かれた内容にあるのではなく、その国家の「人的資源」にこそある、ということであろう。
その点で行けば、安倍首相を始め、石破幹事長、町村氏などの、「特定秘密法」に関する発言を聞いていると、首をかしげざるを得ないのである。
日本の政府の中枢にいる人の頭の程度がこれでは、たとえこの法律があっても、米国は、日本に米国の安全保障にかかわる重要な情報を渡してくれることはないであろう、と思われる。(注5)
だから、いきおい、この法律は、日本の一般の国民に向けて「その効力を」発揮するものとなるであろう。
今までの政府の説明が本心である、とは到底思うことは出来ないのである。
また日本の大多数の国民も、そうは思っていないであろう。
それでもなお、この法律を「ごり押し」してまで、性急に成立させたのは、何ゆえであるか。
それは現在の日本の社会状況が証明していると思う。
(注①) ゴードン・プランゲ 『トラ トラ トラ』 リ―ダーズ ダイジェスト社
(注②)藤原 肇(はじめ) 『インテリジェンス戦争の時代 情報革命への挑戦 』 山手書房新社
「 本当の国家機密とは何か」よりの抜粋
『日本の政治組織の中枢が腐敗していることは、外国に知られては困る一種の恥部ぞあるが、
それ以上に秘匿しなければならないこととして、国家機構の頭脳中枢に相当しているものに、
国際政治で指導性を発揮する人物が存在しないという事実があり、これこそ日本にとって最大
の国家機密である。国家機密にはマル秘のスタンプが押してあったり、極秘文書として厳重な
管理をするために、金庫の奥にでも仕舞い込まれていて、限られたトップにしか閲覧できないから、秘密の存在は知られていないという印象を持つ。しかし、真の秘密は文書や地図のようなものではなく、そのような情報にまつわるシステムを構成する、人的資源の質と組織化の内容に関わるし、その国の最高指導者の頭の出来具合にかかつている。別の表現をするならば、情報の収集と整理や選択に関与する部分と、評価や総合されたものを絶えず準備して、指令と実践の責任を持つ執行部に至る、システム全体の人的ポンテンシャルの内容が、その国家機密の核心部に相当しているのである。
評価された情報が運用に移されるために、時間と空間の軸の中で位置付けられ、戦略としてのプログラムができ上がり、それをトツプの指導によつて実践に移されるが、この戦略の思考プロセスを見破られたり、指導者の能力の限界を知られてはならない。
唐の大宗の発言に「人こそ国の基」というのがあるが、インテソジエンスや戦略を担当したり、トップの座にいる人材群の指導性や能力こそ、その社会が誇る最大の宝であり、国家機密の正体と呼べるものである。だから、国家機密が他国によって盗まれるということは、国家の指導的立場にいる人たちの能力や、情報組織の首脳部の発想法や構想力の内容が、相手に読み取られてしまうことを意味するし、畑眼の観察者にはそれができるのである。そうであるならば、誰が何をどこまで知っているかというレベルから、この人間ならこんな程度の判断をする位のことは、鋭い眼識力を持つ人間なら読み取るので、油断することはとても危険である。
最近の日本では自己顕示癖が蔓延しており、現役の官僚がメディアに頻繁に登場して、自分が評論家にでもなった調子で、テレビや雑誌で進行中の政策について得意にしやべる機会や、
次々に出す著書で国策を論じる行為が目立つ。中には戦略論と題した粗雑な軍略を披歴して、
顔を筆められている現役の外交官もいるが、こんな発想しかできない人物が申枢部にいて、外
交の指揮の一翼を担当していると分かれば、他国に足もとを見られる原因になる。
その部門のスポークスマンや報道官でない限りは、現役の間は沈黙を守るのが政治家や官僚
の鉄則であり、言論活動をしたいのなら公務から離れて、税金から独立した個人の立場でやる
ことだし、官僚がメディアで政治評論をするのは、情報公開とは無関係なぜしやばり行為と言
わぎるを得ない。なにしろ、全力をあげて相手側のトップの考え方や、その指導能力について
分析と評価を行い、戦略の中身や次の動きを予想することは、どんな組織でも行っている情報
活動の一環である。最も重要なトップの仕事になっているのは、相手側のトップの頭の中を読
んで、その人物の判定をすることに他ならないからだ。
日本の海軍司令部の暗号通信を解読をした米海軍が、山本指令長官の搭乗機の襲撃作戦を決
定した時に、ニミッツ提督が一番心配したことは、山本提督が戦死した後の日本の指令長官と
して、もっと有能な人物が赴任する可能性についてだつた。ゲームの指揮者はそこまで先を読
む能力が求められるし、それがトツプの政治的な資質になっている。
この意味では、ただ勝つことに注意を奪われてしまい、ハードウエアの量や武器の機能など
を数えて、戦闘レベルの合戦に熱中しがちな日本人は、他の手段による戦争の継続としての政
治能力や、戦後の平和を構想する大戦略への配慮の点で、相手に弱みを握られ易い欠陥を持っ
ている。実際に、現在の日本の政治におけるトップの椅子は、指導者としての資質や能力に無・・』
(注③)
さらに、プランゲの論を詳しく検討したものに
小室直樹 「大東亜戦争ここに甦る』 クレスト社 があります。是非一読をお勧めします。
(注④)
また、日本政府の中枢にある人物の「頭の中身」がどの程度のものであるかを知るための参考として、youtubeの動画のサイトを貼り付けておきます。
* この投稿をもって今年のニュースにまつわる記事の投稿は終了したく思います。
後は、気軽な記事とします。
(注5)
ある知り合いの方からの指摘があり、私もよく読み返してみたところ、やはり論理矛盾の所ですので、訂正してお詫びいたします。(この赤字の部分は、取り消します)
この文脈からすれば、国家機密というものは、「渡したり渡されたり出来る種類のもの」ではないということになります。
「渡したり渡されたり出来るもの」は、せいぜい「内緒話」に類する類(たぐい)の物であって、到底「国家機密」といえるようなレベルのものではありません。
あくまでも、当事者間の「インテリジェンス」に関わる事柄です。
ラインによる情報の取得と、スタッフによる価値の判断、決断、実行に関わる事柄なのです。
そのような「組織だったシステムの構築」と、そのシステムを有機的に動かすトップの頭の構造の問題なのです。
国家の最高の地位にいるものの頭の中身を「簡単に読み込まれてしまうような言動」を慎む必要性があるのです。 (2013/12/27 13:58 お詫びと加筆)
この法案については、マスコミ等でも盛んに?論じられており、既にこのブログでも、何度か記事にした。
そこで、今回は違う視点から、考えてみたい。
「国家の機密とは何か」ということについて、である。
普通、我々が秘密と考えるものは、軍事機密であったり、特別の技術であったり、外交上の機密情報であったりする。
そして、それらの情報は、秘匿され、誰の目にも触れないように厳重に金庫などの保管されている種類のものである。
特別の人間のみが閲覧でき、その内容は、丸秘中のマル秘である。
それらが公表されると、国家の安全にかかわる、という認識である。
◆
例えば、第二次大戦の時の、真珠湾攻撃に関する事で考えてみよう。
この情報は、厳重に監視され、搭乗員に知らされたのでさえ、出港直前の空母「赤城」においてであった。それは、11月22日のことである。作戦の実行日までは、残すところ、18日間の時の事であった。
太平洋を横断中も厳重な通信の監視が行われた。
ところが米国は既に「開戦劈頭、日本が真珠湾を攻撃してくるであろうこと」を承知していた。
そのことは、プランゲの「トラ トラ トラ」に詳しく述べられている。(注①)
そのうちの一つで、ファーシング大佐のチームが行った研究では、「薄気味悪いほどの正確さで、12月8日に実際に起こったことを、ほとんど正確に予言している」と、プランゲはこの本で書いている。(P87~P88)
ところが実際には、真珠湾攻撃は「成功した」のであった。(「ルーズベルトの陰謀説」については今は置く)
何故か。
プランゲは言う。
アメリカは、「観念的には認めていたが、それを信ずることができなかったのだ」と。
また、当時「ルーズベルトは、日本が攻撃してくるかどうかについては疑問に思う」と考えていた、と。
つまりこういうことである。
情報は存在した。しかも、それは「完全に近いもの」であった。
ところが、肝心の、それを評価するものが、評価を間違え、判断を誤った、のである。
◆
この点に関して、藤原肇氏は、「インテリジェンス戦争の時代」という本の中で、次のように述べる。(注②)
『・・・・国家機構の頭脳中枢に相当しているものに、国際政治で指導性を発揮する人物が存在しないという事実があり、これこそ日本にとって最大の国家機密である。
国家機密にはマル秘のスタンプが押してあったり、極秘文書として厳重な管理をするために、金庫の奥にでも仕舞い込まれていて、限られたトップにしか閲覧できないから、秘密の存在は知られていないという印象を持つ。
しかし、真の秘密は文書や地図のようなものではなく、そのような情報にまつわるシステムを構成する、人的資源の質と組織化の内容に関わるし、その国の最高指導者の頭の出来具合にかかつている。
別の表現をするならば、情報の収集と整理や選択に関与する部分と、評価や総合されたものを絶えず準備して、指令と実践の責任を持つ執行部に至る、システム全体の人的ポンテンシャル(潜在的な力、とでも理解してください=投稿者)の内容が、その国家機密の核心部に相当しているのである。・・・」と。
要するに、国家の機密情報というものは、ペーパーに書かれた内容にあるのではなく、その国家の「人的資源」にこそある、ということであろう。
その点で行けば、安倍首相を始め、石破幹事長、町村氏などの、「特定秘密法」に関する発言を聞いていると、首をかしげざるを得ないのである。
日本の政府の中枢にいる人の頭の程度がこれでは、たとえこの法律があっても、米国は、日本に米国の安全保障にかかわる重要な情報を渡してくれることはないであろう、と思われる。(注5)
だから、いきおい、この法律は、日本の一般の国民に向けて「その効力を」発揮するものとなるであろう。
今までの政府の説明が本心である、とは到底思うことは出来ないのである。
また日本の大多数の国民も、そうは思っていないであろう。
それでもなお、この法律を「ごり押し」してまで、性急に成立させたのは、何ゆえであるか。
それは現在の日本の社会状況が証明していると思う。
(注①) ゴードン・プランゲ 『トラ トラ トラ』 リ―ダーズ ダイジェスト社
(注②)藤原 肇(はじめ) 『インテリジェンス戦争の時代 情報革命への挑戦 』 山手書房新社
「 本当の国家機密とは何か」よりの抜粋
『日本の政治組織の中枢が腐敗していることは、外国に知られては困る一種の恥部ぞあるが、
それ以上に秘匿しなければならないこととして、国家機構の頭脳中枢に相当しているものに、
国際政治で指導性を発揮する人物が存在しないという事実があり、これこそ日本にとって最大
の国家機密である。国家機密にはマル秘のスタンプが押してあったり、極秘文書として厳重な
管理をするために、金庫の奥にでも仕舞い込まれていて、限られたトップにしか閲覧できないから、秘密の存在は知られていないという印象を持つ。しかし、真の秘密は文書や地図のようなものではなく、そのような情報にまつわるシステムを構成する、人的資源の質と組織化の内容に関わるし、その国の最高指導者の頭の出来具合にかかつている。別の表現をするならば、情報の収集と整理や選択に関与する部分と、評価や総合されたものを絶えず準備して、指令と実践の責任を持つ執行部に至る、システム全体の人的ポンテンシャルの内容が、その国家機密の核心部に相当しているのである。
評価された情報が運用に移されるために、時間と空間の軸の中で位置付けられ、戦略としてのプログラムができ上がり、それをトツプの指導によつて実践に移されるが、この戦略の思考プロセスを見破られたり、指導者の能力の限界を知られてはならない。
唐の大宗の発言に「人こそ国の基」というのがあるが、インテソジエンスや戦略を担当したり、トップの座にいる人材群の指導性や能力こそ、その社会が誇る最大の宝であり、国家機密の正体と呼べるものである。だから、国家機密が他国によって盗まれるということは、国家の指導的立場にいる人たちの能力や、情報組織の首脳部の発想法や構想力の内容が、相手に読み取られてしまうことを意味するし、畑眼の観察者にはそれができるのである。そうであるならば、誰が何をどこまで知っているかというレベルから、この人間ならこんな程度の判断をする位のことは、鋭い眼識力を持つ人間なら読み取るので、油断することはとても危険である。
最近の日本では自己顕示癖が蔓延しており、現役の官僚がメディアに頻繁に登場して、自分が評論家にでもなった調子で、テレビや雑誌で進行中の政策について得意にしやべる機会や、
次々に出す著書で国策を論じる行為が目立つ。中には戦略論と題した粗雑な軍略を披歴して、
顔を筆められている現役の外交官もいるが、こんな発想しかできない人物が申枢部にいて、外
交の指揮の一翼を担当していると分かれば、他国に足もとを見られる原因になる。
その部門のスポークスマンや報道官でない限りは、現役の間は沈黙を守るのが政治家や官僚
の鉄則であり、言論活動をしたいのなら公務から離れて、税金から独立した個人の立場でやる
ことだし、官僚がメディアで政治評論をするのは、情報公開とは無関係なぜしやばり行為と言
わぎるを得ない。なにしろ、全力をあげて相手側のトップの考え方や、その指導能力について
分析と評価を行い、戦略の中身や次の動きを予想することは、どんな組織でも行っている情報
活動の一環である。最も重要なトップの仕事になっているのは、相手側のトップの頭の中を読
んで、その人物の判定をすることに他ならないからだ。
日本の海軍司令部の暗号通信を解読をした米海軍が、山本指令長官の搭乗機の襲撃作戦を決
定した時に、ニミッツ提督が一番心配したことは、山本提督が戦死した後の日本の指令長官と
して、もっと有能な人物が赴任する可能性についてだつた。ゲームの指揮者はそこまで先を読
む能力が求められるし、それがトツプの政治的な資質になっている。
この意味では、ただ勝つことに注意を奪われてしまい、ハードウエアの量や武器の機能など
を数えて、戦闘レベルの合戦に熱中しがちな日本人は、他の手段による戦争の継続としての政
治能力や、戦後の平和を構想する大戦略への配慮の点で、相手に弱みを握られ易い欠陥を持っ
ている。実際に、現在の日本の政治におけるトップの椅子は、指導者としての資質や能力に無・・』
(注③)
さらに、プランゲの論を詳しく検討したものに
小室直樹 「大東亜戦争ここに甦る』 クレスト社 があります。是非一読をお勧めします。
(注④)
また、日本政府の中枢にある人物の「頭の中身」がどの程度のものであるかを知るための参考として、youtubeの動画のサイトを貼り付けておきます。
* この投稿をもって今年のニュースにまつわる記事の投稿は終了したく思います。
後は、気軽な記事とします。
(注5)
ある知り合いの方からの指摘があり、私もよく読み返してみたところ、やはり論理矛盾の所ですので、訂正してお詫びいたします。(この赤字の部分は、取り消します)
この文脈からすれば、国家機密というものは、「渡したり渡されたり出来る種類のもの」ではないということになります。
「渡したり渡されたり出来るもの」は、せいぜい「内緒話」に類する類(たぐい)の物であって、到底「国家機密」といえるようなレベルのものではありません。
あくまでも、当事者間の「インテリジェンス」に関わる事柄です。
ラインによる情報の取得と、スタッフによる価値の判断、決断、実行に関わる事柄なのです。
そのような「組織だったシステムの構築」と、そのシステムを有機的に動かすトップの頭の構造の問題なのです。
国家の最高の地位にいるものの頭の中身を「簡単に読み込まれてしまうような言動」を慎む必要性があるのです。 (2013/12/27 13:58 お詫びと加筆)